Napの考えること

by Nap-takemura

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原石

Napの考えること(その14)


日吉Napのオムニバスがやっと完成しました。いまどきライブハウス発信のオムニバスはめずらしくないと思いますが、このアルバムにはちょっと僕なりにこだわりがありました。そのひとつは、普段ここで聴いているライブの音をそのまま再現したいということです。このハコができてまもなく出演アーティストの方からオムニバス出さないんですか、と言うようなお話もあるにはありました。しかし自分の中でもっと心がきちんと動く段階まで待った方がいいだろう、というのが漠然とありました。そんなこんなでいつしかNapも2年目が過ぎ、新しい年である2004年も明けて間もない1月の中頃のことです。その、「自分のこころがきちんと動かされる」という機会がある日突然にやってきたのです。

そのアーティストはNapでも実力も才能も溢れたひとりとして誰もが認めるアーティストでした。その人からの電話でした。内容は、大切な自分のオリジナルを勝手に誰かがサイト上で公開していて困っている、というお話でした。僕は出来る限りのアドバイスをし、当人も相手にはっきりと迷惑を訴え、結果的に相手の方が盗作だということを素直に認めることでこの件は解決しました。しかしなんとも後味のよくない出来事でした。そこで僕はふと思い立ったのです。これまでNapで何百というライブに立ち会って心に迫るたくさんの音楽も体感した、そのうちの何曲かでも権利として守ることは意義があるだろう、と。

幸いにNapは音楽出版社としての業務も行っているので、すぐにコンセプトを考えてみました。そうです、オムニバス盤にして彼らの音楽を世の中にきちんと発表すればいいんだ、と。せっかちな僕は翌2月には簡単な企画書を幾人かのアーティストに送りオムニバスの参加を打診してみました。いま当時の企画内容を読んでみると、Napの通常ライブのスタイルそのままのテンションをCD化することがコンセプトです、と記しています。それはなんとか達成できたかなと思います。なにしろ力のあるアーティストばかりですから心配無用です。むしろアクシデントがあったのは機材の方でした。 

当初の企画では発売日を6月とし、すでに何人かのアーティストには3月早々にレコーディング日まで決めていました。ところが、録音機材であるアナログのMTRに不良が発生したのです。どうしてもアナログにこだわりたかった僕はアーティストに事情を伝え、レコーディングの日時を伸ばして機材を修理することにしました。発売日が遅れるのはもう、しょうがありません。そして業者になんとか特急で修理を請け負ってもらい2週間ほどでもどってきたその機材を見て驚きました。なんと不良部分は直っているのに別の箇所が破損していたのです。もう目の前真っ暗です。ご存じのように録音機材というものは非常にデリケートです。ただでさえ古い機材でしたから、もうこれは元どおりにならないな、と感じました。かくして僕はまたまたアーティストにレコーディングの延期を申し入れ、更に新たな方策を練るはめになったのです。

ところで皆さんもご経験があると思いますが、なぜか物事には必ずと言っていいほどアクシデントがつきまといます。よくTVで偉業を成した人のドキュメントでもそんなことの繰り返しが映されます。まあそんな偉い人と比べるのもどうかと思いますが、今回もご多聞にもれず・・・でした。さて、話は戻りますが、そんなこんなであたふたする状況での新たな機材の手配、それと並行して収録するアーティストのセレクション、デザイナーとの打ち合わせ、収録曲の選定等々。しかしどれもこれもが心わくわくする楽しい仕事です。そうそう、どういう基準でアーティストを選んだかといいますと。ご想像のとおりこれはかなり難しい。もう数えきれないほどのライブにこれまで接しているのですから。そして音楽は多様で多彩でパッションを感じるアーティストは数多い。その中から選ぶとなると思った以上に困難です。そこで僕がやったのはまず、今現在Napで演奏をしている人、定期的に出演している人、つまり自分がよくその人の音楽をその人の世界をまずは知って聴いて見ているアーティストを中心に思いつくだけ紙に書き出すことから始めました。そしてあとはいつもの直感ですすめることにしました。せっかく初のNapオムニバスなのだからまず出演者のすべてとは言わないけれど現在出演してくださっているアーティストの大方が納得するようなアーティストを選ぶこと、そして全体としての彩りがあること。できるなら一枚のアルバムとしてストーリーを感じさせるものにしたい、そんなことを頭に描き決めていきました。結果は果たしてどうでしょう。それは皆さんの評価に委ねたいと思います。

3月にはNod(ノド)としての自分のライブもNapだけではなく下北沢や四谷等で何本か決まっていました。その準備や練習もちょうど重なる時期でしたが多くの方の協力も得ることができ新しい録音機材がやってきました。これでなんとかレコーディングも開始できるというものです。それに今度の機材はデジタルではあるけれど実に音がフラットでかえってアナログよりリアルな音が録れることもテストしてみて判明しました。結果的にはアクシデントが幸いを呼んだわけです。しかしこれによって僕の考えがすこし変わりました。つまり、これならアナログのようなテープのコストも削減されるわけだし、集中的に決まった時間枠でレコーディングするというようなことはしなくてもいい、各アーティストの普段のライブをそのままぜんぶを録音しておいて、その中からベストなテイクを入れるやり方がいい、そう考え直したのです。まさにライブそのままのテンションというコンセプトどおりです。時間はそれによってかかるのは目に見えていましたがそれがベストだなと考えました。残念ながらこの変わってしまったことによって参加を見合わせたアーティストもいましたが、これですすめることで再度調整することに決めました。

アーティスト自身による自分のライブ評価というものはだいたいが辛いものです。ましてCDに収録するとなると余計力が入ってしまい、このテイクでいいのかと心配するアーティストもいます。僕はそのたびに言いました。ライブだけが持つ一瞬の輝きのようなテンション、それを収録したいんです、と。なかにはあえて何も知らせずにライブ録音をして、後日参加の打診をして了解を得たアーティストもいました。そうやって数ヶ月にわたる通常ライブからのレコーディングも少しずつ終えていき、やがて集まった音源はライブの臨場感が詰まった想像以上の出来でした。
 
音楽のすばらしさのひとつに、いつのまにか自分の心の奥底に眠っていた熱情を掘り起こしてくれる、ということがあると思います。このオムニバスに収録されたアーティストの歌にはそれぞれがこれまでに歩んできたであろう生の声が潜んでいるような気がします。技術や才能はもちろんですが一番大切なもの。「今」を生きていく、という決心のようなもの、そんな実感が彼らの歌には見え隠れします。毎月新しい新譜のCDがたくさん世に出ているわけですが、やはりライブで体感する音には特別なものがあります。喜び、悲しみ、ぬぐいきれないような孤独な気持ち、そんなこんなすべてをひっくるめて自分の歌で表現しようとまるで格闘するかのように歌い、弾き語るアーティスト達。僕はこのアルバムが完成していく現場に立ち会えたことを幸せに思っています。不思議なことに癒されるような思いもしました。横浜日吉にある小さなライブハウスで日々働きながら何度も何度も心奮える瞬間に立ちあったことも思い出します。このアルバムがこれからすこしでも多くの人々の耳に届くことをほんとうに心から念じています。祈っています。何かわからないけれど自分を本当に動かすものに出会える喜び、それをこれからも大切にしたいと切に思います。
 
最後に、ここでは詳しくは書けなかったけれど、それこそ思わぬアクシデントにもその飄々としたフットワークで見事乗り切り完成させてくれたデザイナーの田中世里香さん、感謝しています。ありがとうございました。そして今回参加してくださったアーティストの皆さん、すばらしいパフォーマンスこれからも期待しています。また、同じ空間を共有してくれたお客様に感謝します。そしていままでそしてこれからもNapのステージに立ってくれるすべてのミュージシャンの方々へ、これからもたくさんの皆さんの心の声(歌)を聴かせてください。そして一緒に末永く音楽を楽しみましょう(なんかの授賞式の挨拶みたいになってきたな・・・)。ではこの辺で。
                                         
      
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by Nap-takemura | 2004-10-20 08:10